学習者の誤用は私達にいろいろなことを教えてくれます。たとえば、指導のヒントや日本語について考えるきっかけを与えてくれます。『超基礎・第二言語習得研究』にはエラー(誤用)について次のような記述があります。
悪者でも避けるものでもなく、言語習得で歩む道で必ず出てくる、言わば 成長の証です。それを手がかりに、言語を学ぶ本人も、指導者も、成長の道筋と現在の地点を把握することができるのです。
『超基礎・第二言語習得研究』p.54
誤用から学べるということですね。
今回は学習者の誤用に関する本を2冊取り上げます。
1冊目は、1997年発行の本で、入手するとしたら古本になると思います。教え始めたころは、日本語学習者にとってどこが難しいのか、何と紛らわしいのかよくわかっていませんでした。誤用の傾向、指導ポイントを知りたくて、よくこの本を見ていました。この本の著者である市川先生が他の先生方と制作されたものが『日本語誤用辞典』です。
『日本語誤用辞典』のまえがきに、以下のような記述があります。
この辞典は『日本語誤用例文小辞典』(1997) と その続編 (1999) を参考にしているが、今回、11 人によって 誤用例の収集が広範囲に行われたこと、また、文法的な説明では収まらない 「伝達上の誤り」や 「使い方の誤り」などを取り上げることができたことにより、全く新しい形の誤用辞典を作成することができた。
pp.3-4
いずれの書籍にも、実際の誤用例、誤用の傾向、指導のポイントが挙げられています。誤用例では、誤用が、脱落・付加・誤形成・混同・位置・その他の6つに分類されています。
辞典のこういった情報をもとに、自分自身でも以下のような点についてヒントを得ることができます。
私が愛用してきたのは『日本語誤用例文小辞典』のほうです。お安くはないので、『日本語誤用辞典』のほうは買わなくてもいいかなと思っていましたが、「教材開発にも参考になるはず」と思って最近購入しました。買って正解でした。具体的に気に入った点は次の3つです。
『日本語誤用例文小辞典』はメルカリでも出品されていますが、今から買うなら、『日本語誤用辞典』のほうがいいと思います。逆に、個人的に『日本語誤用例文小辞典』のほうが見やすいと思うのは、「関連項目」の部分です。
関連項目について『日本語誤用辞典』では次のような記述があります。
誤用は一つの部分(項目)だけに要因があるとは限らず、他の文要素の影響を受けて引き起こされる場合が多い。「関連項目」は見出し項目の誤用が他のどのような項目と関連して引き起こされるかの「誤用の相関」を示したものである。
p.7
そして、たとえば、「かもしれない」の項目では、以下が関連項目として横に列挙されています(p.82)。
一方、『日本語誤用例文小辞典』のほうは、これらが、「誤用関連項目図」としてマップで掲載されているので、視覚的に分かりやすいです。それから、話は変わりますが、書籍の構成が、ヴォイス、テンス・アスペクト、ムードといった文法範疇別になっているので、そういった観点で参照したい場合は、『日本語誤用例文小辞典』のほうが見やすいと思います。
最後に関連サイトを紹介します。
今回は、誤用辞典を紹介しました。この記事の中で、「誤用」という言葉を使ってきましたが、最近の第二言語習得(SLA)研究では、「エラー」、「誤用」「誤り」という用語は、見直しが始まっているそうです(『超基礎・第二言語習得研究』p.54)。
たしかに「誤用」というと否定的なニュアンスがありますね。
この本では、SLA研究の変遷を見たうえで、NTL(non-target-like:目標言語で使われる形式とは異なるもの)という用語が使われています。ちなみに、こちらの書籍、「超基礎」となっていますが、新しい研究動向にも触れてあるので、学びが多い1冊です。
最近、気になった誤用はありますか。